OVER THE RAINBOW!

20年ほど昔、インターネット掲示板にこんな質問がありました。
「虹はなぜ見えるんですか」
それに対し、上から目線のこんな回答がありました。
「水の屈折率が波長によって違うから。わかった?」
むかっ! 感じ悪いだけでなく、これでは回答になっていません。なぜ雨上がりの夕方、東の空に虹があの形・あの大きさにみえるのかまったく説明できていないからです。

実はこれをきちんと説明することは結構面倒なのです。ひとこと説明しただけで「あっ、なるほどね!」と中学生でも膝を叩くような回答は存在しません。少々面倒ではありますが、けして難しくはないのでこの説明をしてみましょう。



虹が見えるとき、太陽と観測者と虹はおおよそ図1のような位置にあります。太陽は無限遠にあると思っていいので、光は平行な光線の束で表せます。そろそろ陽が沈もうとしていますが、太陽からの光線はまだまだ観測者の頭上はるか上まで来ています。光線が来るのですから太陽が厚い雲に隠れていてはいけません。太陽の方向をみるとそこそこ雲が切れて晴れ間が出ていることがまず必要です。

次に、虹は図1の点線で囲んだあたりにできます。ここに何があるかというと、雨滴や大きめの雲の粒などが存在します。これらの水滴は透明かつ球形をしていて光に対しては球レンズとなります。球レンズの位置はどこにあっても構わないので、動いていても(雨の真っ最中、雨滴は降下してますね)OKです。ただ光の波長(0.4~0.7um)と同程度か、それより小さい雲の粒はレンズというより散乱体として作用しますから虹はできません。しかしふつう雲粒は直径20um以上、雨滴は100um以上ありますのでまずほとんどがレンズとして作用してくれます。

さてこうして空中に浮かんでいる無数の球レンズが太陽の光を受けるとどうなるか。ここが虹のメカニズムの最重要点ですが、これが光線追跡計算をしないとわからないのです。最初に虹の説明が面倒だと書いたのはこの点にあります。まずは計算結果より先に、光がどんな経路をたどるか例を示したのが図2です。



図2で実線で示したように、光は球レンズに入射した後、レンズの向こう側の球面で反射し、再度レンズのこちら側の面で屈折して出てきます。このほかにも最初の入射時に反射してしまう光や、向こう側の面で反射せずに屈折してそのまま出ていく光(図では点線で示しています)も存在しますが、これらは虹を作りません。作りませんが、総じて観測者から見えない方向へ去ってしまうので邪魔にもなりません。虹をつくるのはあくまで図2の実線です。一回反射して観測者の方に戻ってくるのですが、光線が球レンズに入射した位置によって戻ってくる角度は大きく変わります。それを示したのが図3です。



球レンズを出て戻ってくる光の角度は、「その角度を見上げればその光がみえる」ということを意味します。重要なのは角度だけなので、球レンズはどこにあってもいいのです。

図3をみると、戻ってくる光線が集中する方向があることがわかります(光線集中領域として点線で囲った部分)。この方向には他の方向よりも強い光がきます。つまり虹はこの方向に見えるのです。図4で虹が見えている状態をもう一度確認しましょう。なお、虹より上側は暗く、下側は上側より明るくなります。これは図3の光線の分布からわかります。



図4まで、ずっと断面図を使って説明してきましたが、実際の世界は三次元です。図3に戻りましょう。この光線追跡計算の結果は断面図ですが、レンズとなる水滴は軸対称なので断面が水滴の中心を通っている限りどんな断面図でも同じになります。つまり、太陽からの光線に対しある角度θをなして戻った光はすべて虹をつくります。この光は、観測者から見ると太陽光線の方向を中心として角度θを半径とする円形の方向にみえることになります。図3からわかる通り、この円より外側(角度がθより大きい)からは光は出てきませんので暗めになり、円の内側からは集中はしないけれど光は出るので明るくなります。

最後に七色になる説明ですが、図3の光線追跡結果は光の波長によって少しずれます。水の屈折率が波長に依存するからです。このため集中して戻ってくる方向θも波長に依存します。虹が七色にみえるのはこの理由からです。ここまでくると虹の写真(図5)もよくわかりますね。きれいな七色、円形(下半分からは光が来ないので半円ですが)、内側はやや明るく、外側は暗い。



空中に球レンズの役割をする水滴がたくさんあるほど、またそこに入射する太陽光が強いほど虹はくっきり出ます。図5では虹の外側にもうひとつ虹が見えていますが、これは図2の実線の光路ではなく、球レンズ内で二回反射した光が出てきて見えるものです。これも光線追跡で光線の集中を確認できますが、ここでは省略します。

このように、虹ができる理由の説明は結構面倒なのです。

虹の架け橋なんて言葉がありますが、実際に虹を歩いて渡ることはできません。でもそれは水滴でできた虹の話。たとえば微小球レンズを透明な糸でつないで無数にぶら下げれば雨が降っているのと同じ状況を作り出せます。その中に半径可変の円弧状の橋をつくれば地上から虹の橋を渡る人が見えるはずです。見る場所と円弧橋の半径は太陽の位置とともに変えないといけませんが、ご町内だけなら3~4階建てのビルの高さくらいでよさそうです。これなら雨が降らなくても太陽さえ出ていれば虹の橋が見え(正午前後は無理です)、実際に渡ることが可能です。「虹の橋商店街」で町興し!なんてどうでしょうか。